猫は3頭に1頭という非常に高い確率で腎臓病にかかってしまう動物で、一度壊れてしまった腎臓は再生できません。
余命をできるだけ長くしてあげるには、早期発見・早期治療し、日頃のケアで病気の進行をいかに遅らせるかがカギとなります。
この記事では、腎臓病がどのように進行し、どんな治療が始まって、飼い主はなにをしてあげられるのかを解説しています。
残された余命を、後悔少なく過ごすための参考になります。
食べものが腎臓の寿命を縮めるきっかけになることもあります。
余命が短くなっても、好きなものを好きなだけ食べさせ自由気ままに暮らすのもその子の人生。
これからの愛猫の、暮らしに参考になれば幸いです。
猫の腎臓病で余命が伸ばせる病気もある
猫が腎臓病と診断されてからの余命は、慢性腎不全であれば半年から数年、急性腎不全であれば1日~数日で死亡することもあり、予断を許さない状況です。
猫の先祖はもともと水の少ない砂漠で生息していたため、水分摂取量が少なく、少量の濃いおしっこを排泄していて、腎臓に負担のかかりやすい生態と言われています。
また、尿を作るネフロンという構造も、人間の1/5である40万個しかありません。
何をしたから発症してしまったというような原因はなく、どんな健康な猫ちゃんにも発症するリスクがある病気です。
また、一度壊れた腎臓は再生できないため、腎臓病を完治させることはできません。
慢性腎不全は、予防することが難しい病気ですが、早期に発見できれば適切な処置やケアを行い、余命を大きく伸ばせる可能性があります。
まず最初に、猫の腎臓病で一番多い慢性腎不全の特徴と、急性腎不全との違いを解説します。
慢性腎不全
徐々に腎細胞が壊れていくことで引き起こされる、猫の腎臓病の中でも最も多い慢性腎不全。
中高齢で発症することが多いですが、若くして発症するケースも少ないながらあります。
定期的な健康診断で早期に見つけることができるため、先手を打ち、病気の進行を遅らせることができます。
1~6歳までは年1回、7歳以上になったら年2回の健康診断がおすすめです。
残された部分の腎臓が、2倍も3倍も頑張って働くため発見しにくく、症状として現れた頃にはすでに腎臓の半分以上が破壊されています。
早期発見して先手を打つことで、かけがえのない寿命は何年も変わります。
急性腎不全
急速に腎不全が進むため、ぐったりする、尿が出ない、嘔吐などの症状が一気に突如現れます。
尿道閉塞や中毒、感染症など様々な原因が腎臓に負担をかけたと考えられ、一刻も早く原因を取り除いて、点滴などの適切な処置を行わなければ命を落とす危険があります。
尿が作れないほど腎臓が破壊されると、老廃物が排出できず、溜まった毒素が体内で悪さをし、意識障害や痙攣が起こることも(尿毒症と呼びます)。
点滴で水分を補いながら老廃物を薄め、利尿剤や吐き気止めなど症状に応じた投薬を行い、毒素の排出と回復を待ちます。
猫の腎臓病の症状を解説!初期段階では変化がない?
腎臓の働きは、体内の老廃物を尿中に排出することですから、腎臓病の症状は体内に老廃物が蓄積することによって引き起こされます。
進行の程度により、猫の腎不全は次のようにステージ分けされていますが、初期段階では無症状です。
ステージが進むにつれ症状も悪化し、検査結果でも腎臓病の数値が上昇します。
猫の慢性腎不全のステージ分けは、次の基準になっています。
正常な腎臓 | 症状 | 検査結果 | |
ステージ1 | 30~100% | 無症状 | 尿検査や血液検査では正常 |
ステージ2 | 25~30% | 飲水量が増える 尿量が増える | 尿検査で異常 尿比重の低下・蛋白尿が出る |
ステージ3 | 10~25% | 食欲が落ちる 毛艶が悪くなる 元気がなくなる 痩せてくる | 血液検査で異常 BUN(尿素窒素)・Cre(クレアチニン)の高値 体内のミネラルバランスが崩れる |
ステージ4 | ~10% | 貧血になる 吐く頻度が増える | BUN・Creの高値 体内のミネラルバランスが崩れ |
ステージごとの症状を詳しく解説していきます。
ステージ1 初期
初期と言っても、腎臓の7割が破壊されていてもおかしくありません。
ですが、残された3割の腎臓は、症状や検査結果にも引っからないほど何倍も働くため、通常、見つけることは困難です。
そのために、【SDMA】という検査があり、一部の動物病院内や外部の検査機関へ依頼することで、測定できます。
これは、腎臓が40%障害された、かなり早期の段階で慢性腎不全を発見できる検査です。
院内で検査が可能な医療機関は少なく、外部の検査機関に血液を発送して行うため、結果が出るまでは1週間〜2週間を要する検査です。
健康診断の時に、検査項目に追加して、一緒に計ってもらえるように申し出るとよいでしょう。
ステージ2 前期
残された正常な腎臓の機能は1/4程度ですが、この段階で気付いて来院される方はほとんどおらず、健康診断や他の症状などで検査をして、たまたま見つかることが多い段階です。
腎機能が落ちると、ろ過機能が低下するために、尿中に蛋白が漏れ出してしまい、体内に老廃物が溜まり始めます。
老廃物が十分に排出できていない薄い尿しか作れず、尿の全体量を増やすことで、少しずつ老廃物を外に排出しようとします。
そのため「多飲多尿」と言って、お水をたくさん飲み、たくさんの薄いおしっこをする症状が現れます。
いつもより水を飲む量が増えたと感じたら、腎不全のサインかも知れません。
体調をよく確認しながら、腎不全が進んでいないか定期的に検査を行います。
ステージ3 中期
このステージまで来ると、血液検査で【BUN】と【Cre】という、腎機能を評価する数値が正常範囲を超え始めます。
腎機能が低下することで老廃物が溜まり始めます。
猫は弱り、元気や食欲がなくなって痩せ始めます。
抵抗力も落ちて、口内炎がおこり口臭が強くなります。
ステージ4 末期
腎臓には、血液を作る指示を出す部分があるため、うまく指示が出せず貧血も起こります。
尿の量が増えるために脱水が起こり、便の水分が減り便秘気味になります。
毒素が溜まるために、嘔吐する頻度が上がり、腎臓が尿を作れないところまでくると、大変危険な状態です。
急性腎不全の時と同様に尿毒症を起こす可能性があり、意識の低下や痙攣を起こすことがあります。
猫の腎臓病の治療は維持と食事によるケアが中心
1度壊れた腎臓の組織は、元には治らないため、猫の腎臓病は治療というより、いかに腎機能を維持し、進行を緩やかにするかがカギになります。
老廃物を体外に排出しやすくするよう、脱水による便秘を防ぐよう、十分な水分補給と腎臓を守る食事内容や投薬が大切になります。
近年では、様々なメーカーが猫の腎臓病に配慮されたフードやおやつを製造していて、安心して与えられる食べ物も増えています。
猫の慢性腎不全は治療期間が長く、負担となることもありますが、おうちでできる簡単な工夫もあります。
腎臓病によいサプリメント、通院の頻度など、ステージごとにまとめましたので、主治医と相談しながら、必要なときに必要な治療が行えるよう努めましょう。
ステージ1では水分補給と塩分に配慮を
1ヶ月〜半年に1回など、状況に合わせて定期的な血液検査で進行の程度をチェックします。
その時の体調や脱水の程度に応じて、必要な時には皮下補液を行います。
皮下補液とは
猫の皮膚の下には、注射で水分を入れることができ、痛点の少ない背中に点滴の液を100ml程、注入することができます。
人間にはこの隙間が作れないので、皮下補液は不可能ですが、犬も皮膚の下に同じように構造があり、皮下に水分を蓄えることが可能です。
10分もかからず注入をすることが可能なため、人間で一般的な点滴のように血管に針を挿入して、入院させポタポタと少しずつ時間をかける必要がないため、ストレスを抑えられます。
この背中に蓄えた水分は半日から1日かけて吸収されます。
皮下補液は、血管確保した静脈点滴ほど、ダイレクトに循環器系に点滴の液を届けることができないため、確実な水分補給と早急な投薬が必要な場合には不向きです。
この時期、おうちでしてあげられることは次のポイントです。
- 水飲み場を増やし、水分補給の機会を増やす
- 塩分の多いおやつは避ける
- 早期腎臓病用のフードに切り替える
市販のフードで、腎臓に配慮されたものが販売されていますが、市販のものは飼い主が間違えて購入して与えてもペットの健康に影響のない範囲でしか成分の調整ができません。
一般食は療法食にはかないませんので、腎臓病の診断をされたら、きちんと獣医療用のフードに切り替えることをおすすめします。
逆を言えば、健康な猫ちゃんに腎臓病を予防しようとして療法食を与えることは絶対にやめてください。
腎臓用の療法食はタンパク質が制限されているため、健康な猫ちゃんにとっては必要な成分が不足し、病気になってしまうリスクがあります。
腎臓用のフードはたくさん作られていますが、早期腎臓病用のフードを販売しているメーカーは少なく、中でもこちらのヒルズの早期腎臓アシストはネットでも購入できます。
腎臓が排出できずに溜まってしまう老廃物の原因となるタンパク質の量が制限されており、腎臓への負担を減らすことができます。
一気にフードの切り替えをしようとすると、まったく食べてくれなかったり、切り替えに失敗しやすくなりますので、いつものフードに1割程度を混ぜて与え、徐々に切り替えましょう。
煮干しなどのおやつはリンを含み、腎臓に負担をかけますので、与えていた場合は、今後はやめましょう。
中期はさらに食事の内容に注意する
中期では皮下補液の頻度がさらに増え、血液検査でカリウムの低下があればカリウムを、吐き気があれば吐き気止めの注射を追加するなど、状態に合わせた投薬が加わってきます。
血圧を下げて腎臓への負担を減らすお薬などが処方されます。
サプリメントの併用も勧められる時期で、今後の病気の進行に影響しますので、合うサプリメントを見つけたいところです。
この時期におうちでできることはこちら。
- 投薬を開始する
- 継続できるサプリメントを選ぶ
- 腎臓用フードに切り替える
- ウェットフードを与える
- 低リン低ナトリウムのおやつを選択する
サプリメントでは、こちらが多くの飼い主さんに長く愛用されています。
このサプリメントは匂いや味がなく、多くの猫ちゃんが受け入れてくれています。
粉末のため、ごはんにかけたり、缶詰に混ぜたりして与えられ、療法食と併せて必須アイテム1つ。
リンと老廃物を吸着してくれます。
粉が苦手な猫ちゃんには液体タイプのサプリメントもあります。
与えやすい専用のシリンジで、直接お口に入れて飲ませることもできますし、好きな食べ物にかけて与えることもできます。
イパキチンと同じく、体内の老廃物や蓄積しやすいリンを吸着し、腎臓の血管の機能を守ります。
チキンとフィッシュのフレーバーでとてもおいしく、続けやすい味になっています。
おやつは、腎臓の負担になるリンやナトリウムの量が制限されているものを積極的に選ぶと良いでしょう。
フードは、【早期腎臓用】のものから【腎臓用】のフードに切り替えましょう。
さらに塩分とタンパク質が抑えられた分、食いつきが落ちることがあり、病気の進行によりただでさえ食欲が落ちる時期に、食事内容と食欲は問題となってきます。
そのため、1つのメーカーから腎臓用のフードだけで複数の味を製造しています。
根気よく愛猫の好みの味をみつけてあげましょう。
お薬やサプリメントを飲むのが苦手な猫ちゃんには、こちらの商品でお薬を包むと、腎臓への負担を心配せずに投薬ができ、おやつとしても安心して与えられます。
腎不全の猫ちゃんが安心して食べられるおやつは数少ないので、知ってほしいおやつの1つです!
腎臓病だからといっておやつの楽しみを奪われる必要はありません。
後期の治療は補液と今後について考える時間
老廃物がさらに溜まりやすくなることで、吐く頻度が増えますが、治療方針は中期と同様で、状態に合わせた内容の注射を継続で行っていきます。
補液の頻度が状態に合わせて週に2〜3回程度に増えたり、血液検査の結果によって入院による静脈点滴を勧められることもあります。
この時期にしてあげられること。
- 食べ物から水分補給を促す
- 食べられるものを探す
- 今後の過ごし方をよく考える
体は骨が触れるほど痩せ、腎臓病用のフードは食べてくれないことがほとんどです。
腎臓を保護するために推奨されていた腎臓用フードも、末期では食べなくなりますので、全くなにも食べないよりは、おいしいものを与えて少しでも栄養を摂ることが推奨されます。
ちゅーるが大好物の猫ちゃんは多く、中でもこちらのちゅーるは低リン低ナトリウムで、腎臓に配慮されていて安心して与えることのできるおいしいおやつです。
総合栄養食ではなく、おやつの分類になりますので、このちゅーるだけで完璧な栄養バランスをまかなうことはできません。
ですが、今は栄養バランスよりも、少しでも食べられるものがあることが最優先です。
ドライフードよりは、ウェットフードや水分補給を促すパウチを与えることで、食事からも水分を摂取することができますので積極的に与えると良いでしょう。
今後の過ごし方を考えるとは
末期になると、瘦せ細り家ではほとんど寝ていたり、最期には痙攣を起こして亡くなる猫ちゃんもいます。
そこで、大事な家族が苦しんでいる姿を見ていられないと、安楽死を希望される方も現れます。
最後は家でゆっくりと家族との時間を増やしたいと、通院をやめる方もいます。
最後までできる限りのことをし、一番本人(愛猫)の身体が楽な状態で逝かせてあげたいと、入院による点滴など積極的な治療を希望をする方もいます。
その場合は、亡なくるタイミングに飼い主が立ち会えないこともありますが、仕事などで猫ちゃんを留守にせざる得ない方では、せめて病院のスタッフに看取られながら…と考える方もいます。
どの選択肢も、飼い主が愛猫のことを考えて選んだのなら間違っていません。
じっくり、愛猫の最期を考えましょう。
自宅での皮下補液
実は皮下補液は自宅でできる場合があります。
様々な条件や動物病院の方針によりますので、かかりつけの病院に相談すると良いでしょう。
自宅での皮下補液は、通院のストレスが減りメリットがたくさんあるもののデメリットが付きまといます。
現在、病状が落ち着いているかなど、獣医師の判断によりますので誰でも可能なわけではありません。
獣医師が自宅での皮下補液を勧められるかどうかの基準には、次のようなことが考慮されています。
- 注射針などの扱いについて飼い主が正しく理解できるか
- 動物が暴れずにじっとしていられる性格か
- 症状が落ち着いているか
- 心臓などほかに持病がないか
- 不器用ではないか
- 動物に針を刺すことに抵抗がないか
自宅での皮下補液を勧める方の中には、飼い主が人間の看護師さんであるなど、注射針等の扱いに慣れているといったこともあります。
もちろん、医療の経験がなくても勧めることはありますが、さてやってみましょうとなると、ここでひるむ方が多く見られます。
医療行為でなければ、針を生き物に刺すという行為はなかなか経験しないものです。
通常は生き物に針を刺すことは生き物を傷つける行為になりますから、抵抗が起こることがあります。
さらに、腎臓病が末期になり機能せず、尿を全く作れなくなる(無尿)と体に水分が溜まってきます。
そこにさらに皮下補液で水分を入れることで、行き場のなくなった水分が肺に溜まり肺水腫を引き起こし、大変危険な状態になります。
獣医師が聴診器を当てたりレントゲン撮影をしなければ判断できませんので、そのような状態に陥っていても飼い主が気が付くことは難しいといったリスクが伴うため、自宅で皮下補液を許可しない方針の動物病院もあります。
まとめ
- 猫は腎臓病になりやすく、一度壊れた腎臓は再生できないため、いかに維持するかが余命に重要に関わってくる
- 腎臓病の猫の余命を伸ばすためにできる工夫があり、水分補給やリンとタンパク質の摂取量に気を付けることが重要である
- 猫の腎臓病はどんな健康な猫ちゃんにでも起こりうる病気である
- 急性腎不全や慢性腎不全の末期では、数日以内に亡くなってしまうこともある危険な病気であるため、一刻も早く治療が必要になる
- 腎臓病の症状は、腎臓から排出されるべき老廃物は体内に蓄積することで起こる
- 猫の慢性腎不全はステージ分けされており、ステージ1の初期段階では症状や検査で異常が出ないが、すでに7割以上の腎臓が壊れていることがある
- 日数や費用がかかるが、腎臓が4割壊れた早期の段階で腎不全を発見できる検査がある
- 慢性腎不全の主な治療は、皮下補液による水分補給と腎臓に配慮された食事内容・投薬とサプリメントが中心になる
- 末期で全くなにも食べないようであれば、腎臓用の食事内容よりも、栄養を摂れることのほうが重要なため、好きなものを与えて良い
- 飼い主が自宅での皮下補液を勧められることもあるが、条件や病院の方針により行えないこともある
治療費や頻繁な通院など負担のかかる腎臓病ですが、最初にも記載した通り、完治はしない病気です。
いかに病気と向き合い、付き合っていくか。
残された余命を穏やかに過ごせることを祈ります。
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